金沢地方裁判所 昭和36年(ヨ)86号 判決 1961年7月10日
申請人 大屋嘉琢 外一一名
被申請人 株式会社富士タクシー
主文
一、被申請人が、昭和三六年五月一九日、申請人大屋嘉琢、同沢山安栄、同和栗猛、同織田実、同黒田幸造、同梅原威、同高本秀男、同水上弘、同北川富男、同橋本渥、同苗代稔に対してそれぞれなした解雇の意思表示の効力を仮に停止する。
二、被申請人は、申請人大屋嘉琢に対し金二〇、〇〇〇円、同沢山安栄に対し金二〇、〇〇〇円、同和栗猛に対し金二〇、〇〇〇円、同織田実に対し金一五、〇〇〇円、同黒田幸造に対し金一五、〇〇〇円、同梅原威に対し金一五、〇〇〇円、同高本秀男に対し金二〇、〇〇〇円、同水上弘に対し金一〇、〇〇〇円、同北川富男に対し金二〇、〇〇〇円、同橋本渥に対し金一五、〇〇〇円、同苗代稔に対し金一五、〇〇〇円ならびに昭和三六年六月から本案判決確定まで、毎月その翌月六日限り、申請人大屋嘉琢に対し金二七、五八四円、同沢山安栄に対し金三〇、四九〇円、同和栗猛に対し金二九、〇三四円、同織田実に対し金二二、六二五円、同黒田幸造に対し金二二、二四四円、同梅原威に対し金二二、五四一円、同高本秀男に対し金二五、二九九円、同水上弘に対し金一七、一〇四円、同北川富男に対し金二六、四九六円、同橋本渥に対し金一八、三九二円、同苗代稔に対し金二一、六八〇円をそれぞれ支払え。
三、申請人等(申請人和栗のり子を除く)のその余の仮処分申請ならびに申請人和栗のり子の本件仮処分申請をいずれも却下する。
四、申請費用中、申請人和栗のり子と被申請人との間で生じた分については申請人和栗のり子の、その余の部分については全部被申請人の負担とする。
(注、無保証)
事実
第一、当事者双方の求める裁判
一、申請人等訴訟代理人は、
「(一)被申請人が、昭和三六年五月一九日申請人大屋、同和栗猛、同高本、同沢山、同黒田、同梅原、同水上、同橋本、同苗代、同織田、同北川に対し、並びに同年同月二〇日申請人和栗のり子に対して、それぞれなした解雇の意思表示の効力は、仮にこれを停止する(二)被申請人は申請人等(但し申請人和栗のり子を除く)に対し別紙賃金目録の金員を昭和三六年六月から毎月五日限りそれぞれ支払え(三)申請費用は被申請人の負担とする」
との判決を求めた。
二、被申請人訴訟代理人は、
「申請人等の申請をいずれも却下する。申請費用は申請人等の負担とする」
との判決を求めた。
第二、申請の理由
一、申請人等(但し、和栗のり子を除く。以下同じ)と被申請人との関係
(1) 被申請人株式会社富士タクシー(以下被申請会社と略称する)は乗用車による旅客運送を目的とする会社であり、申請人等は被申請会社の従業員である。
(2) 申請人等は、被申請会社の従業員でもつて構成する富士タクシー労働組合(以下富士タクシー労組と略称する)の組合員であり、積極的に組合活動を行なつて来た。富士タクシー労組は全国自動車交通労働組合連合会(以下全自交と略称する)並に全自交石川地方連合会(以下石川地連と略称する)の加盟団体であつた。
なお、申請人等は昭和三六年四月二〇日から二二日までの間に石川地連に個人加盟をしていた(石川地連の規約第二条では労働組合たる団体と個人が加盟できることになつている)。
(3) 他方、被申請会社は旅客運送を目的とする会社でもつて構成する石川県旅客自動車協会(以下単に協会と略称する)に加盟していた。
二、労働争議発生の経過
(1) 富士タクシー労組は、昭和三六年三月一七、八日の両日、臨時組合大会を開催し、労働時間の短縮、週休制の確立、基本給の大巾賃上げ等の諸要求並びにスト権の確立を決議したが、同時に石川地連との統一闘争によつて右要求を貫徹することを確認し、ここに富士タクシー労組は石川地連に団体交渉権、ストライキ指令権、妥結権の三権を委任することとなり、一八日大会終了後石川地連に右趣旨の委任をした。
一方、協会と石川地連との間では、昭和三六年春の賃上げ交渉(以下春闘と略称する)を統一交渉によつて解決すべく、統一交渉に関する協定を締結し、これを遵守することを確約した。
(2) 被申請会社の組合運営に対する支配介入
しかるに、被申請会社は、右統一交渉に関する協定を無視し、富士タクシー労組の加盟する全自交が、日本労働組合総評議会傘下の連合団体であつたため、富士タクシー労組を全自交から脱退させようと策謀した。
(イ) 被申請会社社長は、昭和三六年四月八日、金沢市末町「滝の荘」において、富士タクシー労組一部執行委員に対し、翌九日の組合大会において全自交脱退を決議するよう執拗に勧誘し、その方法を謀議した上、翌九日富山県石動町西野旅館において組合大会を開催することを画策してこれを実行に移し、同社長自身右大会に出席し、組合員の動向を監視したが、全自交脱退は事実上否決され、その目的をとげることができなかつた。
(ロ) さらに、同月二二日の夜、被申請会社社長は、富士タクシー労組委員長高崎広吉方において、同労組の執行委員および全日本労働組合会議(以下全労と略称する)の東木作次、村上オルグと会合し、組合執行部に対し「組合が全自交石川地連より脱退し、全労に加盟を決定した場合、会社は今時春闘に関する諸要求に対し、全自交の解決以上の条件にて組合と妥結すること」の確約書を交付して同労組の全自交脱退を熱心に勧め、そそのかした。
(ハ) そして、翌二三日には、小松方面の工場見学という名目で従業員を集め、小松製作所において、突如、組合の臨時大会に切りかえ、ここで全自交脱退、全労加盟を決議させるに至つた。しかし、この臨時大会と称される集会においては、組合員の一部(春闘中で緊急車に業務していた組合員)に対しては殊更に招集通知をせず、あるいは非組合員を決議に参加させるなど、組合運営上の民主主義の原則が甚だしく蹂躪されていた。
(ニ) かくして、右集会後直ちに、被申請会社社長は従業員を能美郡寺井町の料亭「銀スイ」に呼び、全自交脱退、全労加盟の決議を祝つて、自己の費用で、従業員に饗応した。
このように、被申請会社は、富士タクシー労組の運営に支配介入して労働組合の正常な運営を阻害し、不当労働行為を行つた。
(3) 組合の分裂
被申請会社の組合介入によつて、富士タクシー労組は全自交脱退を決議するに至つたが、申請人等は、前記四月八日の「滝の荘」における被申請会社の策略をいちはやく察知し、あくまで全自交、石川地連に踏みとどまることを決意し、同申請人等は、同年四月二〇日から二二日までの間に、石川地連へ個人加盟した。そして、タクシー労働者との統一交渉を行なうべく組合大会における全自交脱退決議に反対して来た。
しかるに、同年四月二五日の組合大会では、終始全自交、石川地連とともに闘うことを主張していた同申請人等は、この組合大会から不当にも追い出されてしまつたので、申請人等は一一名で富士タクシー労組再建の第一歩を踏み出した。ところが、申請人等を事実上追い出した後の組合大会(以下この組合を全労富士タクシー労組と呼ぶ)では、ユニオンシヨツプ協定を含む労働協約を被申請会社と締結することを決議した。
(4) 争議の実態
申請人等は、富士タクシー労組の組合員であるとともに、石川地連の個人加盟者でもあるので、四月二六日からの石川地連の無期限ストに参加した。このストは全自交の春闘第一四波のストライキであつた。被申請会社は、同日小松製作所従業員等スト破りを雇い入れて、石川地連並に申請人等の正当な争議行為を押しつぶそうと図つた。即ち、被申請会社肩書地正面の市媛神社境内に集合した申請人等並に石川地連加盟応援団体に対して、被申請会社は露骨な挑発を行ない、ホースでもつて水をかけたり、出前用のケースを投げつけるなどの暴行を行なつた。
その結果、一部小ぜり合いを生じ、双方に若干の負傷者が出た。
その後協会と石川地連との賃上げ交渉が妥結するに至り、ストライキ体制は五月九日解除された。
三、解雇の通告とその無効
被申請会社は、昭和三六年五月一九日申請人等一一名に対して、書面で、解雇の意思表示をなして来た。しかし、この解雇通告は、解雇権の濫用(解雇すべき正当な事由がないのみならず、団結権を侵害している)であり、かつ、労働組合法第七条に該当する不当労働行為であるから無効である。以下その理由を述べると、
(1) 解雇理由の第一点
「会社に対し貴殿は外部の多数の人を頼み理由なく会社に押しかけ、営業用自動車二台、配車室及び階上事務室の窓ガラスを大破せしめ、剰さえ、他人に対し暴行傷害(全治五週間)を加えたことは正常な労働組合運動の域を著しく逸脱し、会社業務の正常な運営に重大なる支障を来した」という理由について。
申請人等は被申請会社の主張するような器物損壊、暴行、傷害の行為は全然やつていない。また外部の多数の人を頼み、理由なく会社に押しかけたというけれども、労働者の組合組織が、企業の枠を超えた横断的なものであるとき、ひとつの企業で争議行為が発生すれば、その企業の従業員でない組合員もまた争議支援に出かけることは当然のことであつて、これを違法視することは、憲法、労働法で保障する団結権、団体交渉権、争議権を全然理解しないものである。前述のように、被申請会社は、富士タクシー労組の正当な争議行為に対して、スト破り等によつて不法な威圧を加え、もつて申請人等の有する争議権を不当に侵害しているにもかかわらず、厚顔にもこれを申請人等を解雇する理由となしている。
被申請会社の解雇理由は全くのいいがかりに過ぎないものであつて、申請人等にとつて身に覚えのない行為によつて解雇される理由はない。
被申請会社が申請人等を解雇する理由があるとすれば、それは申請人等が全労富士タクシー労組に加入せず、全自交、石川地連に留まつたからに外ならない。従つて、申請人等に対する解雇の意思表示は、明らかに不当労働行為であつて、無効であるといわねばならない。
(2) 解雇理由の第二点
「労働協約第二条、第四条に基く。
労働協約第二条とは、会社の従業員は第三条に定めるものを除き、すべて組合員でなければならない。
労働協約第四条とは、組合を除名された従業員及び組合に加入しない従業員は会社は直ちに解雇し、名目のいかんを問わず組合の同意なくして会社の業務に従事させてはならない」という理由について。
富士タクシー労組が、右のようなユニオン・シヨツプ協定を締結したことはない。従つて、申請人等の関知するところではない。
仮に全労富士タクシー労組が被申請会社との間で締結したものであるとすれば、かような協定は申請人等に対しては効力を及ぼさない。全労富士タクシー労組が、労働組合法第七条第一号但書所定の要件を充足するとしても、協定の成立前から従業員であつた申請人等に対して、当然に右協定の効力が及ぶものとすれば、これは申請人等の既得権を不当に侵害し、不当労働行為を認めることになるからである。なぜなら、前述のごとく、富士タクシー労組は四月二五日事実上分裂し、全自交に残留する申請人等の組合と全自交脱退、全労加盟を決議した全労富士タクシー労組の二つが存在していた状態のもとで、申請人等は、ユニオン・シヨツプ協定の締結前から少数ではあるが全自交富士タクシー労組の組合員として、石川地連傘下に自主的、かつ実質的な労働組合運動を行なつていたものであつて、もしユニオン・シヨツプ協定の効力が申請人等にも及ぶとすれば、申請人等の団結権は不当に侵害されることになる。ことに、本件における富士タクシー労組の分裂の経緯を見るとき、富士タクシー労組は、その分裂前被申請会社の支配介入によつて御用組合化し、上部連合体たる全自交、石川地連を脱退するに至つているのであつて、かような御用組合化している全労富士タクシー労組の締結したユニオン・シヨツプ協定の申請人等に対する効力を容認するならば、結果的には被申請会社の「支配介入」をも是認したことになるからである。
よつて、被申請会社の申請人等に対する解雇の意思表示は、解雇に相当する何らの理由もないから、無効であると断ぜざるを得ない。
四、解雇の予告とその無効
被申請会社は申請人等を即時解雇するに当つて、一ケ月分の予告手当を支払つてもなければ、労働基準監督署長に対し、右手当を支払わないことについての除外申請もまたしていないから、この点からも本件解雇は無効である。
五、除名手続の無効
仮に申請人等が全労富士タクシーの労組員だとしても、本件除名は組合規約で定められている手続を得ていないから無効である。即ち、右規約によれば、まず懲罰委員会の議に付し(こゝで被懲戒者は意見を述べることができる)、同委員会で除名を決議した場合は、更に組合大会で直接、無記名投票により三分の二以上の組合員の同意を要すると定められているのに、右手続によらないで本件除名はなされたものである。
六、賃金額の計算関係
(1) 被申請会社は、その従業員に対して毎月一日から末日までの賃金を翌月五日に支払つている。
(2) 別紙賃金目録中「六月分以降賃金」欄の記載金員は、通常の稼動日数を有する従前の三ケ月の平均支給額に、春闘において賃上げの認められた三〇〇〇円(但し格差調整金の一〇〇〇円は含まれていない)を加算して算出されたものである。
(3) 別紙賃金目録中「五月分賃金」欄の記載金員は、前記「六月分以降賃金」に三一分の二三を乗じたものである。
これは申請人等は、五月九日午前九時にストライキ体制を解除し、直ちに当日から被申請会社に対して労務の提供をしているものであるからである。
(4) 被申請会社は、五月九日以降申請人等の労務の提供の受領を拒絶しているが、申請人等が右金員の請求権を失うものでないことは民法の一般原則に照らして明らかである。
七、申請人和栗のり子に対する解雇の無効等
(1) 申請人和栗のり子は、申請人和栗猛の妻であつて、被申請会社の笠舞町営業所において、配車係として勤務しているものである。
(2) 被申請会社は昭和三六年五月二〇日申請人和栗のり子に対して解雇の意思表示をなして来たが、解雇の理由は「御承知のことと思いますが、和栗猛君は五月一九日付を以つて解雇致しました。従つて今後貴女には配車の仕事をしていただく必要がなくなりましたので御通知致します」
というものである。
(3) 申請人和栗のり子採用の経緯
昭和三六年三月一日、被申請会社は笠舞町営業所の配車係に欠員を生じたため、妻が配車係をなし得ること但し同営業所の一室を貨与することを条件として、従業員からこれを募つていた。たまたま、申請人和栗猛の妻のり子が配車係をなし得ることから、被申請会社では申請人和栗夫妻が入居することを懇願し、申請人和栗夫妻は止むなくこれを承諾して入居するに至つた。その後、申請人和栗猛は借間の契約関係を明確にすべく再三、被申請会社に交渉していたが、同会社は言葉をにごしてこれに応じなかつた。又申請人和栗のり子の賃金等の労働条件も未決定の状態で、事実上部屋の賃借料と申請人のり子の賃金を相殺している形をとつていた。いわば被申請会社は、賃貸借及び雇用の契約関係を放置することによつて、賃金を不当に安く或いは部屋代を不当に高くするという利益を得ていた。しかし、申請人和栗のり子の労働条件の内容は詳細に決定はされなかつたけれども、被申請会社では、申請人のり子を配車係として雇用していたものである。
(4) 解雇の無効
しかるに、被申請会社の主張する解雇理由は全く不当である。夫である申請人和栗猛が解雇されたことをもつて、その妻申請人和栗のり子をも解雇するということは、恐るべき前近代的な使用者意識である。
申請人和栗のり子は解雇さるべき何らの理由を持たない。又被申請会社は、この解雇通告によつて、申請人和栗のり子の労務の提供を受領する意思がないことを明確にしたものといわねばならない。
八、保全の必要
申請人等は解雇無効確認、賃金支払等の本案訴訟を提起すべく準備中であるが、被申請会社の不当な解雇によつて申請人等はその職場を奪われ、経済的及び精神的に著しい苦痛に陥つているし、かつ生計を維持するに足る収入の道は完全に断たれてしまつているので、現在申請人等の従業員たる地位を仮に定め、賃金の支払を求めなければ、申請人において著しい損害を蒙る危険がある。よつて申請の趣旨記載のごとき裁判を求めるために本件仮処分命令申請に及んだ次第である。
第三、被申請人の答弁および主張
一、事実の認否
(一) 「申請人等と被申請人との関係」の項について
(1)の中、被申請人が申請人等主張の会社であること、及び申請人等が昭和三六年五月一九日まで被申請人の従業員であつたことは認めるがその他は争う。
なお申請人和栗のり子については後述する。
(2)の中、富士タクシー労組が昭和三六年四月二三日まで全自交石川地連の加盟団体であつたことは認めるがその他は不知。
(3)の中、被申請人が昭和三六年四月二八日まで申請人等主張の協会に加盟していたことのみを認める。
(二) 「労働争議発生の経過」の項について
(1)は概ねこれを認める。
(2)は全面的にこれを否認する。申請人等の勝手な主張であり、被申請人は富士タクシー労組に介入したこともなければ、これを支配したことも勿論ない。詳細については後述。
(3)の中、被申請人が富士タクシー労組とユニオン・シヨツプ協定を含む労働協約を締結したことは認めるが、その他は全部否認。
(4)の中協会と石川地連との賃上げ交渉が妥結したことは認めるが詳細は不知、その他は全部否認。
殊に、被申請人が、申請人等主張の如きスト破りを雇い入れ、申請人等の正当な争議行為を押しつぶそうと図つたとか、露骨な挑発を行なつたとの点は絶対に否認する。
(三) 「解雇の通告とその無効」の項について
被申請人が昭和三六年五月一九日申請人等一一名(和栗のり子を除く)を解雇通知書に記載の理由をもつて解雇し、これを申請人等に通知したことは認めるが、それを無効なりとする申請人等の主張は全部否認。
(四) 「解雇の予告とその無効」の項について予告手当を支払つていないこと、除外申請をしていないことはいずれも認めるが、申請人等の主張は否認。
(五) 「除名手続の無効」の項について全部否認。
(六) 「賃金額の計算関係」の項について
(1)は認める。但し支払日は翌月の五日ではなく六日である。
(2)(3)につき、この数字には争がある。
(4)は争う。
(七) 「申請人和栗のり子に対する解雇の無効等」の項について
(1)の中、申請人和栗のり子が昭和三六年五月二〇日まで笠舞町営業所において配車係をしていたことは認めるが、右は従業員ではなく嘱託である。
(2)申請人和栗のり子に対し、その嘱託を解除した事実はある。
(3)申請人和栗のり子の主張は事実と甚しく相違するのでこれを争う。
(4)否認。
(八) 「保全の必要」の項について
否認する。
二、被申請会社による支配介入の不存在
(1) 昭和三六年四月八日富士タクシー労組の役員及び従業員計一四名位が滝の荘に集合した。そして、同日正午頃組合執行委員長小堀五男から被申請会社代表取締役藤岡詳に対し、会社側の意見を聞きたいから右集合の場所へ来て貰いたいとの要請があつた。藤岡はこれに応じ直ちに滝の荘へ赴いたが、その場所に到着するや否や県評の白浜オルグも同所へ到着した。
組合側の意向は、この両名を対談させ、争議に関連して両名の腹蔵ない意見を充分に聞こうとすることにあつたらしいが、藤岡並びに白浜は上記一四名の面前に於て交互にその意見を開陳し、又組合員の質問に答えるなどその対談、討論は実に当日の夜半まで凡そ一二時間余り続いた。組合側はこれによつて被申請会社側の経営方針、全自交の争議方針などを詳細に知り得たものと思料される。その間、藤岡から、組合に対し、全自交からの脱退を勧誘したような事実は全くない。のみならず、この会合に於ては会社代表取締役藤岡詳と県評の白浜オルグとが殆んど同時に入席し、一、二時間に亘つて対談し討論して双方の主張を明らかにした上退席したものであり、しかも、一切組合側の発意によつて会社代表取締役の出席を求めたものであつて、会社側から策謀したというようなことは絶対にない。
(2) 翌四月九日組合の大屋、平木等数名がジープで会社へ来、会社の藤岡代表取締役に対し、これに乗つて来て貰いたい、昨日の話を全従業員に聞かせてほしい。ということであつたので、藤岡はそれに乗つたところ、富山県石動町の一旅館へ運ばれたのである。旅館へ入つて見ると、既に全従業員が集つており(当日はスト中であつた)、藤岡は応接室で暫時待たされていたが、やがて県評の白浜オルグが全自交の一人と同道して来着した(凡そ当日の正午頃であつた)。藤岡と白浜は同室で組合側から案内のあるのを待つていたが、その間別室では組合大会が開かれていた。やがて両名は大会の席上へ招かれ、白浜は約一時間に亘つて全自交の方針など組合のあり方、争議の進め方を開陳し、引続いて藤岡も会社側の経営方針などを述べ、更に両名は座つて組合員等の質問に答えたが、これが終つて両名は別室へ退いたのである。組合は更に会議を続け(議長は大屋嘉琢)、やがて執行部不信任の意見なども出ていたが、藤岡は午後六時頃その場所を辞去した。
(3) 翌四月一〇日、引続いて一一日の両日、組合は会社内に於て大会を開き、白浜オルグ立会の下に次の通り新執行部を選んだ。
組合長 高崎広吉
副組合長 北村外茂吉
書記長 和栗猛
執行委員 織田実
前田清次郎
森田四郎治
徳田信次
そして、同オルグ立会の下に会社代表取締役藤岡詳は右の通知を受けたのである。
爾来組合は新執行部を中心として争議行為を続けてきたのである。
(4) 四月二三日午後四時頃組合から会社へ電話があり、組合は同日大会を開き四一対六、白票二で全自交を脱退し全労に加盟することを決議したこと、そして組合員はいま「銀スイ」に集つているので、社長からもう一度組合員に対し会社の経営方針などを明らかにして貰いたいとの申入れがあつたので、藤岡代表取締役は「銀スイ」へ出向いたところ、全組合員が広間に並んでおり食事の用意が出来ていた。藤岡は全員の前で石動で述べたと同趣旨のことを語り、又、食事を共にしたが、申請人等主張のように、藤岡が組合員を小松へ集めて決議をさせ、更に「銀スイ」に呼んで自己の費用で饗応したというような事実ではないのである。
この経緯は当日出席していた申請人等もよく知つている事である。
当日の大会には非組合員も決議に参加したとの事であるが、これはその大会で申請人大屋、同沢山等の発言で非組合員にも投票させることに全員の同意があつたので為されたことであつて、被申請会社の全く関知しないところであるのみならず、申請人等がこれを非民主的なりとすることは妥当でない。
(5) 要するに、争議発生以来組合が全自交を脱退するに至つたについて、会社は組合に対し不当労働行為になるような事は全然していないのであつて、すべてこれは組合の自主的判断によつて為されたことである。滝の荘に於ても、石動の全組合員の大会に於ても、藤岡代表取締役と県評の白浜オルグは常に同席して意見を聞かれているのであり、四月一〇日、一一日の組合大会にも白浜オルグは列席しているのであり、又前記数回の組合大会には申請人等も出席参加しているのであつて、頗る公明に行なわれたことは申請人等も充分に承知している筈である。従つてこれをすべて会社側の策謀したもののように主張する申請人等の主張は甚だ失当であつて、被申請人の絶対に認めないところである。
三、本件解雇の適法性
(1) 先づ解雇理由第一点について申請人等は身に覚えのないことであると云つているが、当時の状況は次のとおりである。
昭和三六年四月二六日午前八時四〇分頃申請人等一一名が、背後に数百名の他の労組員と共に被申請会社の前面へ来た。当時会社には藤岡代表取締役は不在であり、若干の従業員がいたのであるが、申請人等が果して何の目的をもつてその場所へ来たものか、その点は判明しない。
ところが、その時申請人等を含む一団の支援者は突如として行動を起し、或いは会社建物内に侵入し、或いは外部から集団的に暴行、器物損壊の行為を始めたため、
会社建物二階の窓ガラス二枚、配車室のウインドーガラス五枚、自動車一台の前面ガラス一枚は無残に破られ、営業車の車体の外部には打撃の痕跡が多く残され、事務室は荒らされた。のみならず、当時その場所に居合せた石川県全労議長曾我嘉三氏は激しい暴行を受けて重傷を負い、また正規に就労していた会社従業員も傷害を受けたのである。
これらの暴行、傷害、損壊の行為の直接の行為者は具体的には知り得ないが、集団的に為された右の所為について申請人等もその集団の中にあつたことは申請人等としてもこれを否定し得ないであろう。
そして右の所為が会社就業規則第六〇条第三号の
「他人に対し暴行、脅迫を加えたとき又は会社の業務の正常な運営に悪影響を及ぼしたとき」
に該当することは明らかである。
(2) 団体交渉権、争議権が法律によつて保障されていることは無論被申請会社もこれを認め、これを尊重するものであるが、その権利あるが故に暴行、傷害損壊の行為も亦許されるということはあり得ない。上述のような集団的な不法行為は許される争議行為の範囲を著しく逸脱するものであつて、このような事実のあつた本件において、これを解雇の理由とすることはいうまでもなく適法である。
(3) 解雇理由第二点についての申請人等の主張は失当である。即ち、昭和三六年四月二五日午前、富士タクシー労働組合から被申請会社に対し、団体交渉の申入れがあつた。この申入れは組合において組合大会にはかつてなされたものであるが、被申請会社はこれに応じ、団体交渉に入つたのである。その交渉に於て会社、組合間に同日次のような協定(部分協定)が成立した。
(イ) 富士タクシー従業員はすべて組合員でなければならない。但し課長以上のもの、試用期間中のもの(三ケ月)、会社、組合間で協議したものを除く。
(ロ) 除名された組合員は、会社は直ちに解雇しなければならない。
(ハ) 協定の期間は一ケ年。
右成立した協定については直ちに書面を作り、同日午後双方調印した。
(4) ところが、その翌日、即ち四月二六日に至つて前述のような不測の暴行事件が突発したので、その事件の終つたのち、組合では臨時組合大会を開き、決議をもつて組合員中本件申請人等一一名を除名した。
その除名の理由の要旨は
(イ) 同人等は組合内部の分裂を策動し、組合に不安を与えた。
(ロ) 四月二五日の組合大会に外部のものを頼み、会議を混乱に陥れ、且つ退場した。
(ハ) 四月二六日、五〇〇名からなる多数の暴力をもつて理由なく組合員の勤務を妨害し、自動車、器物を破損し、且つ組合員及び曾我議長に傷害を与えた。直接手を下したか否かは問題でなく、この事件を捲き起した要因は大屋嘉琢以下一一名であると判断する。
このことは組合の体面を汚し、且つ組合員に重大な損害を与えた。
というのである。
同日附をもつて、被申請会社は組合長高崎広吉から一一名を除名した旨の通知を受けたのである。
(5) 昭和三六年五月一日、被申請会社と富士タクシー労組との間に、次の条項を含む暫定労働協約が締結、調印された。
(イ) 会社は組合を従業員の労働条件の決定に対する唯一の団体交渉の相手方と認める。
このことは石川全労が交渉に参加することを排除する意味と解してはならない。
(ロ) 組合を除名された従業員及び組合に加入しない従業員は、会社は直ちに解雇し、名目の如何を問わず、組合の同意なくして会社の業務に従事させてはならない。
(6) 昭和三六年五月二日、同月一三日の両度に亘り、労組委員長高崎広吉は会社に対し、前記被除名者一一名を労働協約の前記ユニオン・シヨツプ条項にもとずき速やかに解雇せられたい旨を申入れてきたので、被申請会社は同年五月一九日、申請人等に対し、書面で、解雇の意思表示を為した。
(7) 申請人等は右解雇通知は違法であるとして(一)ユニオン・シヨツプ条項は申請人等に効力を及ぼさない。(二)若し右条項が申請人等に効力を及ぼせば、申請人等の団結権が侵害される。(三)ユニオン・シヨツプ条項を協約した富士タクシー労組は御用組合であるから、若しこの協定の効力を是認するならば、会社の労組への支配介入を是認したことになると主張している。
しかし、
(イ) 昭和三六年四月二五日成立した部分協定においてユニオン・シヨツプ協定が成立している。
申請人等が組合を除名されたのは四月二六日であつて右除名されたことによつて会社は被除名者たる申請人等一一名を解雇すべき義務を負うに至つたのである。
そして五月一日の労働協約の第二条、第四条は四月二五日協約の趣旨を更に明確ならしめたものであるが、同第四条によれば、組合に加入しない従業員も解雇の対象となつているのである。
申請人等は四月二六日除名されるまで組合員であつたが故に四月二五日協約の効力を受けることは一点疑うの余地もない。
更に、第四条にもとずき会社は解雇すべき義務を重畳的に負うに至つたものと云わねばならない。
即ち、申請人等は除名され且つ組合に加入しない従業員であるが故に、会社としてはこれを解雇する協約上の義務を免れることはできないのである。
(ロ) 既にユニオン・シヨツプ条項が申請人等に有効である限り、これにより解雇されても申請人等はその解雇の効力を否定できないのみならず、申請人等の団結権も侵害されたことにはならない。
以上の次第で、申請人等の本件申請は失当である。
第四、疏明関係<省略>
理由
第一、申請人和栗のり子を除く当事者間の雇用契約および解雇
被申請会社は乗用車による旅客運送を目的とする会社であること、申請人等(申請人和栗のり子を除く。以下同じ)がいずれも昭和三六年四月頃被申請会社の従業員であり、その従業員で構成する富士タクシー労組の組合員であつたこと、また、被申請人が、昭和三六年五月一九日付で申請人等に対し、就業規則第六〇条第三号(他人に対し暴行、脅迫を加えたとき、又は会社の業務の正常な運営に悪影響を及ぼしたとき)所定の懲戒解雇事由に該当する本判決事実摘示欄三(1)の事実、および暫定労働協約第四条(組合を除名された従業員および組合に加入しない従業員は、会社はこれを直ちに解雇し、名目の如何を問わず、組合の同意なくして会社の業務に従事させてはならない)所定の解雇事由に該当する右事実摘示欄三(2)の事実がそれぞれ存在することを理由として解雇する旨の意思表示をしたことは、当事者間に争いはない。
第二、被申請人の申請人等に対する解雇の効力
(一) 解雇に至るまでの経過
成立に争ない甲第六号証、甲第一〇号証、乙第四号証、乙第一〇号証、証人向源二の証言により真正に成立したと認めうる甲第四号証の一ないし一一、証人高崎広吉の証言および被申請人代表者の尋問の結果により真正に成立したと認めうる乙第二号証、乙第五、六号証、証人白浜卓也、同北村外茂吉、同小堀五男、同高崎広吉(後記措信しない部分を除く)の各証言、申請人和栗猛の本人尋問の結果、被申請人代表者の尋問の結果ならびに当事者間に争がないところを総合するとつぎの事実が疎明せられる。
(1) 富士タクシー労組は、全自交ならびに石川地連の加盟団体であつたところ、昭和三六年三月一七、一八の両日臨時組合大会を開催し、労働時間の短縮、週休制の確立、基本給の大巾賃上げ等の諸要求、ならびにスト権の確立を決議したが、同時に石川地連との統一闘争によつて右要求を貫徹することを確認し、ここに富士タクシー労組は石川地連に団体交渉権、スト指令権、妥結権の三権を委任することとなり、同月一八日石川地連へ右趣旨の委任をした。
一方、被申請会社は旅客運送を目的とする会社でもつて構成する協会に加盟していたところ、協会と石川地連との間では、春闘を統一交渉によつて解決すべく昭和三十六年三月二十五日統一交渉に関する協定を締結し、これを遵守することを約束した。
(2) しかるに、その後石川地連の闘争方針に疑問をもつに至つた富士タクシー労組の執行委員等若干名は同年四月八日金沢市末町旅館「滝の荘」に集合し、その席へ被申請会社社長藤岡詳および石川県労働組合評議会(以下県評と略称する)地方オルグ白浜卓也の両名を招き、それぞれ会社側の経営方針および全自交側の争議方針について説明をうけた。
(3) 翌四月九日全自交統一行動の日に、組合は県外である富山県石動町にある西野旅館で組合大会を開き、その席上前日同様藤岡社長と白浜オルグにそれぞれの立場を説明させたが、結局結論は得られないままに終つた。翌一〇日、一一日の両日、組合は会社内において組合大会を開き、委員長高崎広吉、副委員長北村外茂吉、書記長和栗猛、執行委員織田実、前田清次郎、森田四郎治、徳田信次の新執行部を選んだ。
(4) 同年四月二二日富士タクシー労組の執行委員会が委員長高崎広吉方で開かれ、その席上へは全日本労働組合会議(以下全労とよぶ)の東木作次、村上オルグも出席して全労の組織等について説明し、あとからその席に加つた藤岡社長は、「組合が全自交石川地連より脱退し、石川県全労働組合に加盟を決定した場合には、会社は今次春闘に関する諸要求に対して全自交の解決以上の条件で組合と妥結することを確約する」旨の確約書を組合執行部一同宛に書き、これを執行委員長に交付した。
(5) そして、翌四月二三日組合は小松市内小松製作所において臨時組合大会を開き、全労の村上オルグから全労についての説明があつた後投票に移り、賛成四一票、反対六票、白票二票の割合で全自交脱退、全労加盟を決議した。なお、右投票に際しては、大会の承認の下に非組合員一〇名も投票に参加した。
(6) 他方、申請人等は、組合内部の動きを察知し、あくまで全自交、石川地連に踏み止ることを決意し、同年四月二〇日から二二日までの間に石川地連に対し個人加盟をなしていた。
(7) 四月二五日午前全労富士タクシー労組は組合の団結を強めるため森本町の菊池方で集会を開いたが、小松における組合大会後組合に非協力的だとの理由から申請人大屋、同沢山、同橋本の三名にはあらかじめ通知しなかつた。しかし、席上申請人和栗猛から全員出席させるべきだとの異議も出て、右三名も会場に呼び出された。そして、同席していた全労の村上オルグは、組合員に向つて「この中には全自交に個人加盟している者もいる。全自交に個人加盟した者は手をあげよ、個人加盟を取消さないか」など話しているうちに会場の空気はにわかに険悪となり、「全自交出て行け」という叫び声のうちに全自交支持の申請人等は会場を退場した。
(8) その後、同日午後、全労富士タクシー労組は被申請会社との間につぎのような部分協定を結んだ。
(イ) 富士タクシー従業員はすべて組合員でなければならない。但し、課長以上の職にある者、試用期間中の者(原則として三カ月)その他会社組合間で協議した者を除く。
(ロ) 会社は組合を除名された従業員を直ちに解雇しなければならない。
(9) 同年四月二六日申請人等は富士タクシー労組の組合員であると共に、石川地連の個人加盟者でもあるので、同日からの全自交の春闘第一四波のストライキに参加した。そして、申請人等を応援すべく集つた全自交石川地連加盟団体員数百名は、被申請会社と電車通りをへだてて向い合つている市媛神社境内付近に集合した。他方、被申請会社車庫内には小松製作所労組員が数十名既にピケをはつて待機していた。
そこで、申請人等の一部がストライキに入るため、会社の中へ入つて自分の車を動かさないようにしようと、他の石川地連加盟団体の人達と共に市媛神社から会社の前へ移動し、県評の白浜オルグが全労の東木作次に対しピケを解くよう交渉しているうちに、突発的に小ぜり合いが起り、全労の曽我議長がホースで石川地連の応援団体員に水をかけたことなどから双方がますます興奮し、出前の鉢や螢光燈の管等が乱れ飛びその結果会社側の一、二階のガラスや自動車の前面ガラスが破られ、営業車のボデイが凹んだり、また全労の曽我議長は数週間の傷害を負つた。
(10) 全労富士タクシー労組は同年四月二六日付で被申請会社に対し、本判決事実摘示欄第三、三(4)記載の理由で申請人等を除名したことを申入れた。
(11) 同年五月一日被申請会社は全労富士タクシー労組との間で、次の条項を含む暫定労働協約を締結し、調印した。
(イ) 会社は組合を従業員の労働条件決定に対する唯一の団体交渉の相手方と定める。このことは石川県全労働組合会議が交渉に参加することを排除する意味と解してはならない。
(ロ) 組合を除名された従業員および組合に加入しない従業員は、会社は直ちに解雇し、名目の如何を問わず、組合の同意なくして会社の業務に従事させてはならない。
(12) 同年五月一九日被申請人は、申請人等に対して、前記理由欄第一記載の二つの理由で、解雇の意思表示をした。
証人高崎広吉の証言中右認定に反する部分は採用しないし、他に右認定に反する疎明はない。
(二) 懲戒解雇の効力
被申請人は、申請人等に対する解雇事由の第一点として、昭和三六年四月二六日申請人等がなした暴行、傷害、器物損壊行為は就業規則第六〇条第三号の「他人に対して暴行、脅迫を加えたとき又は会社の業務の正常な運営に悪影響を及ぼしたとき」という懲戒解雇事由に当るので解雇したと主張する。
そこで、右解雇事由に該当する事実の存否について判断するに、右四月二六日の乱闘の経緯については前記(一)(9)において認定したとおりであるが、申請人等が本件暴行をなしたものであるとの事実は、本件全疎明によつても認められない。むしろ、申請人和栗猛の本人尋問の結果によれば、事件当日申請人黒田幸造は病気で欠席しており、同沢山安栄も黒田の見舞に行つており、現場にはいなかつたことが認められる。もつとも、証人北村外茂吉の証言、被申請人代表者の尋問の結果によれば、申請人等のうち二、三名の者については集団の中にいたことが確認され、右黒田、沢山を除く申請人等が事件当日数百名の集団の中にいたであろうことは容易に推察されるが、さればといつて、単にそれだけの事実だけでは、他に特段の主張立証のない本件にあつては、当然に本件暴行についての責任を右申請人等に対して問うことはできないものといわねばならない。してみると、被申請人の申請人等に対する本件懲戒解雇は、その懲戒事由についての疎明がないことに帰するから、就業規則違反として無効である。
(三) ユニオン・シヨツプ協定に基ずく解雇の効力
被申請人は、本件解雇事由の第二点として、全労富士タクシー労組が昭和三六年四月二六日申請人等を除名したので、同労組との間で締結した暫定労働協約第四条に基き申請人等を解雇したと主張する。これに対し、申請人等は、除名のなされた昭和三六年四月二六日当時には既に全労富士タクシー労組の組合員ではなかつたと争うのでこの点につき判断するに、前記(一)認定の事実によれば、昭和三六年四月二五日森本町で行なわれた組合大会で、「全自交出て行け」との叫び声のうちに申請人等が会場から退場した時、従前の富士タクシー労組は全労富士タクシー労組と全自交富士タクシー労組とに分裂したものと認めるのを相当とする。
そうだとすれば、組合の分裂後、一方の組合である全労富士タクシー労組と被申請会社との間で締結されたユニオン・シヨツプ協定の効力は、協定組合の組合員外の組織労働者たる申請人等に対しては及ばないものと解すべきである。けだし、申請人等においてすでにその団結権を行使して組合を結成している以上、その既得権は尊重さるべきものだからである。
してみると、被申請人の申請人等に対するユニオン・シヨツプ協定に基ずく本件解雇もまた結局その解雇事由がないことに帰するから無効である。
第三、申請人和栗のり子に対する解雇
申請人和栗のり子が昭和三六年三月から同年五月二〇日まで被申請会社の笠舞町営業所において配車係をしていたこと、同日被申請人は同申請人に対し、事実摘示欄七(2)記載の理由で配車の仕事を断つたことは当事者間に争ない。
申請人和栗のり子は昭和三六年三月一日被申請会社によつて笠舞町営業所の配車係とし雇傭されたものであると主張するが、本件全疎明によつても右事実を認めるに足りない。もつとも、申請人和栗猛の本人尋問の結果によれば、昭和三六年三月被申請会社は笠舞町に新しく車庫を建て、その二階を従業員に貸す、但し、その妻を配車係とするという条件で住み込み希望者を従業員から募集したので、申請人和栗猛は妻である申請人和栗のり子と共に右営業所へ入つたこと、それ以来同申請人等は部屋代を支払つてないことが認められる。
しかし、雇傭契約が成立するためには労働に対し報酬を支払うことをその要素とするところ、右事実のみでは、他に特段の事由がない本件では、報酬の定めがあつたものとは認められない。
そうだとすれば、申請人和栗のり子の被申請会社との間の雇傭契約を前提とする同申請人に対する解雇の効力無効の主張は、その前提を欠くことになるから、その余の判断をするまでもなく失当である。
第四、本件仮処分の必要性
(一) 地位保全の必要性
申請人等一一名がいずれも会社復帰の気持を有しているにも拘らず、右のような無効の解雇によつていわれなく従業員としての地位を否認されることは、仮に収入途絶による生活危難という点を度外視しても、そのことにより労働者たる申請人等の受ける有形無形の不利益、苦痛が甚大であることは容易に推認しうるから、申請人等の地位保全を図る本件仮処分をなすの必要性があるものというべきである。
(二) 賃金支払の必要性
(1) 申請人等が被申請人から解雇される前三ケ月間に支給された賃金の一ケ月平均額は別紙賃金目録中平均賃金欄記載の各金員であること(但し黒田幸造の一ケ月平均賃金は二二、五四四円となつているが二二、二四四円の誤記と認める)、被申請人の従業員に対する賃金支払日が毎月翌月六日であること、申請人等は被申請人から五月九日以後被申請人から就労を拒否されていることは疎明ならびに弁論の全趣旨により明らかであるから、申請人等が被申請人に対してその後における賃金として前示金額相当の支払を請求する権利を失わないことは当然である。
(2) 申請人和栗猛本人の尋問の結果によれば、申請人等は解雇後他に就職することができず、生活に著しい困難をきたしていることが認められる。
そこで、申請人等の右のような窮状にかんがみ、被申請人の申請人等に対する賃金の仮処分による支払額につき、本件口頭弁論終結の日(昭和三六年六月二三日)現在においてすでに履行期の到来した昭和三六年五月分として主文第二項前段掲記の限度の金員(一カ月平均賃金、この間申請人等が争議行為をなして就労しなかつたこと、申請人等の生活困窮状況その他諸般の事情を考慮した)、その後の月分として本案判決の確定当時まで主文第二項後段掲記の金員の範囲において、仮処分により被申請人に対し申請人等に賃金支払を命ずる必要性を認めるものとする。
第五、結論
以上のとおりであるから、申請人等(申請人和栗のり子を除く)の本件仮処分申請は、主文第一、二項掲記の限度で理由あるものと認め、保証を立てさせないでこれを認容し、その余の申請は失当としてこれを却下し、申請人和栗のり子の申請は理由がないからこれを却下することとし、訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 山田正武 松岡登 花尻尚)
(別紙省略)